毎朝、自宅周辺には多くの子ともたちの笑顔か咲きます。車やクラクションの騒音の中、親に連れられ保育園や小学校に通う子ともたちの姿は、ここ東京から遠く離れたイラク中北部のキルクー クという街で不安な表情を浮かへた母親に見送られ、今日もまたどこかで起こったテロの爆発音を聞きなから登校している子ともたちを思い出させます。

国際協力に関心かある私はNPO (NGO)の会計・税務を中心に税理士として仕事をしています。 平成30年3月まで税理士と同時に国際NGO職員としてキルクーク市で子どもたちを対象に平和教育を実施してきました。イラクは2014年6月からイスラム過激派組織、 いわゆる「イスラム国(IS)」の影響により、キルクークにも約50万の国内避難民(以下、IDP) が押し寄せました。キルクーク市内はIDPの流入に伴い、家賃や交通費を含む物価が高騰し労働賃金は低下、病院では医薬品が不足。住民の中にはこの困難な状況を一種の「IDPからの攻撃」 だと表現する人もいてIDPと住民の緊張が高まりました。同時にIDの子どもたちはPTSD (心的外傷後ストレス障害)やパーソナリティ障害と呼ばれる精神疾患を起こす可能性があり対応が必要です。

私が所属していた(現在:専門委員)日本国際ボランティアセンター(JVC)は、現地のローカルNGOであるINSANと、この緊張を緩和させるためID Pと住民の子どもたちが一緒に文化の多様性や共生について学ぶ平和教育を実施しています。 徐々にその効果が個人々々に蓄積され、「下から平和をつくる」 動きに繋がることを目指しています。 「何故キルクーク拠点で活動するの? 治安の良いアルビルを拠点にしても同様の活動は出来るよね」INSANとのミーティングの休憩時間に代表のアリーさんに尋ねました。キルクークは受け入れコミュニティーとIDPだけでなく、イラクの中でとくに宗派間対立の激しい危険な地域だからです。

 

INSAN代表のアリーさん

イラクは17世紀にオスマン帝国に再編され、その後、行政再編でモスル、バグダッド、バスラの3州に分けられました。1920年のサン・レモ 会議で、この3州を統合する形で英国の委任統治 下に置かれ現在のイラク領が固まりました。ここにアラブ、クルド、アッシリア、トルコマン等多数の民族が住み、スンニやシーアをはじめ様々な 宗派や宗教が存在します。多様な民族的背景や宗派・宗教をもつ人々が住む歴史的に一体性のない領土を、人工的に統合することでイラク国家が建設されました。それでもイラクは中東の中でも世俗的で、イラク戦争以前のバグダッドではスンニ やシーアの争いもなく、異なる宗派間の婚姻も行われていました。いざ結婚式となって「うちはどっちの宗派だっけ?」ということもあったそうです。 「超ミニスカートをはいて、スンニやシーアの関 係なく一緒にダンスをしていたのよ」と戦前の様 子をアリーさんのお母さんが教えてくれました。

キルクークは 国内第3位の埋蔵量を誇る油田を抱えています。加えてこの街の歴史的背景から2003年イラク戦争後、宗 派、民族集団ごとの利害が噴出しました。深夜から朝方5時までだけが安全な時間。警察、公共機 関だけでなくレストラン、カフェなど街中どこで もテロの対象になります。またゴミ問題で隣人と 撃ち合いになることもあります。これに対し、隣 のクルド人自治区の首都アルビルは穏やかな治安のよい街です。

 

キルクークにてアリーさんのお母さんと

 

約10年前、キルクークから首 都バグダッドへ 乗合タクシーで向かう途中、アリーさんの隣に 座っていたスンニ派の男性がチェックホイントでIDチェックを受けた後射殺されました。「このタクシーでの 出来事以来、僕は本気でイラクの平和構築に取り組んでいるんだ。ついにイラク人同士が憎みあい、殺し合うようになってしまったと思った。キルクークを離れたらテロに遭遇する子どもたち、 人々の息遣いを感じることが出来ないよ」と煙草 の煙と一緒に、一気に捲くし立てるように話すアリーさん。困難な現状から逃げることなく活動する彼らの活動を日本社会に発信し、繋いでいかなければと思いました。

国際社会においては紛争の人道的介入という名目のもと、外部の力で平和をつくろうとしてきました。しかし上手くつくれたのでしょうか。外部が介入しなくてはいけないという状況は事態が既に問題なのです。だからこそ「上から平和」をつくるのではなく、自主的、自律的に地域の人々が「下から平和」をつくる。その現地の人たちの 活動を陰で支えるのがNGOの仕事です。それは一見遠回りにみえても一番近道な方法かもしれません。

 

今回、シリア出身の妹のガムちゃんが、わたしの後任としてイラク事業を引継いでクラウド・ファンディングにも挑戦しています! 皆さんの応援してください!!

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